春の波
○けふ出会ふ歩幅やあすも春の波
○また明日も飽きることなく春の波
春の風
○春風や萬葉の間の吹くここち
○春風や塔もはるかに見えにけり
○春風やいま西行と共にあり
○東京に出て春風や友とカフェ
○東京や春風に添い友とカフェ
○東京を紹介したり春の風
梅
○白むめやこの世の終のいづくへと
○白むめや黒髪の世のみだれたる
春雨
○春雨や浮世の筆を置きにけり
○春雨や宇宙を知った利休めは
○春雨に茶器を知りたる利休めは
○春雨に只立ちつくせ一ノ太刀
○春雨やけふ大原の花となれ
○春雨やわが名をあげよ一ノ太刀
○春雨や一夜の夢を一眠り
○春雨や古井の縁に長き夢
○春雨や宿の下にて重なれり
○春雨や烏帽子の枝を誰か世に
春の月
○春月を盗まんとする女かな
○君ふれず盗むがごとし春の月
○君や出て触れず盗まん春の月
○誰しれずこころや盗め春の月
○足音やたたづに盗め春の月
○幸若の夢まぼろしや春の月
朧月夜
○おぼろ夜や鼠の声も聞こえたり
○おぼろ夜やすがた盗まん足の影
○朧夜や雲の姿もなかりけり
春の闇
○新しくいのちのこぼれ春の闇
○触角のしづかに伸びて春の闇
桜
○願はくはその年となれ花の雨
○一月の桜のこころ君を追ふ
○三門の余白となりし桜かな
○都落つ桜の花の烏帽子かな
○武士のみくじに花を呑むべきや
○みくじ箱潮の香りに桜かな
○天神の梅や桜も牛の屋根
○けふの月けふの桜や伊勢語
○小坊主やあとに桜を川柳
○都々逸の歌を枕に桜かな
○葛飾と名乗りあの世の桜かな
○アイルランド過ぎて日本の桜かな
○父と見る桜瞳に二国かな
○父の国アイルランドや桜咲く
新緑
○新緑や九郎どこぞと兄の声
五月雨
○湯を注ぎマグを並べて五月かな
西瓜
○閑さや十万億土と西瓜あり
○西瓜割り海も遥かの大地かな
メロン
○メロン割り匙におとなの甘き顔
○メロン割り世田谷の女性三十代
○飾られしメロンの様に香気あり
○飾られしメロンや空を飛べるはず
○手の中のメロンや空をあふれをり
○港区に飾られてをるメロンかな
○人工の建造物にメロンかな
○抱き締めてメロンの街やなつかしき
○美しくメロンの道や白きひび
○まるごとに東京を置くメロンかな
○覆いたるメロンの道に入りけり
青葉
○鎌倉の軸に青葉や風の抜く
若葉
○東国の結ぶ三社の若葉かな
○千住橋旅にかさなる若葉かな
○喧嘩して涙の後のアイスクリーム
○月替りアイスクリームの気分かな
○シロップやアイスキャンディ弾けたり
○突き刺さるバーにポップな氷菓子
○風味ごとアイスキャンディ懐かしき
○放牧のとけて広がるソフトクリーム
氷水
○氷店棺は行きぬ風見鶏
○氷店のせて緑の昼下り
○夏氷ひと匙ごとに思い出す
バナナ
○姿よしデザインとなるバナナかな
夕焼
○夕焼けの一本の道ひとつかな
夏の雨
○あの頃や愛犬と居た夏の雨
白玉
○白玉の悪疫を消す白さかな
○いっそ白玉に風となるわが身かな
○白玉や恋に大路を語るなかれ
○白玉や小高き山にひと休み
○白玉の乗せてや白の品のよさ
○白玉のくずれて白の冷たかな
梅干
○梅干や春日の鹿にさもあらん
○梅干や潮ゆく瀬戸の耶蘇仏
○梅干や母が一番いいといふ
○梅干や常の暮らしの線の上
○梅を干す鎌倉屋敷太刀の陰
夏料理
○一皿に島盛り合わす夏料理
○二階よりすべて目につく夏料理
○目の奥に景色広がる夏料理
○朝顔の淵の便りも静なり
○朝顔に乾く盥の夕べかな
○もの語り押し黙るなり夜の秋
○飾られし靴に山風秋近し
○炎天に三蔵を知る言葉なり
○麻婆のうまくて辛い夏の夕
○夏の夜や愛猫空に瞼とじ
○詰めこんだ辛い料理や夏の夕
○楽しみは暑き辛みのランチかな
○日盛りに好む辛みのランチかな
○炎昼にうま辛好きのランチかな
○炎昼や真骨頂のよき辛み
○清々し辛い香りや夏の夕
○盛夏して旅立つ釈迦や人を見る
○開かれた窓に大きや夏の海
芭蕉葉
○芭蕉葉や月を揺らして風に聞く
○芭蕉葉や月にゆらぎて弦ひびく
○芭蕉葉の雫や月の映れれる
◯芭蕉葉のゆらぐ南の月夜かな
ビール
○生ビール一口入れて餃子かな
○美しや餃子の焼きに酌む麦酒
◯生ビール空けて中華の青味かな
蜜豆
○蜜豆や端正にして涼もあり
○蜜豆よ端正にしてかがやける
○端正に蜜豆となる寒天よ
○蜜豆の端正となる四角かな
○寒天や端正なりし夏の涼
紫陽花
○紫陽花や雨に打たれて出会いから
○ひそめたる恋雨つぶの四葩かな
○白玉やほのかに甘く恋すなり
向日葵
◯向日葵や大聖堂の歌声に
◯向日葵や国王様の美術館
◯向日葵や海岸線を埋めつくす
◯ひまわりや海岸線の風となり
秋の暮
◯行く人や式部の筆も秋の暮
秋の燈
◯秋の燈やゆれてゆかしき竹生島
秋
◯石垣やしのばせ夢の秋の音
夏の果
◯白砂の海岸線や夏の果
夏休み
◯連れられて夜の灯りや夏休み