○石垣のさぼりて近し若楓すはれて雲に風のとなりまし
○青葉ゆく五月の風も六月の風もいつぞや秋もちかしか
○月かげて肺の病の辺に咲ける愛薔薇色の青銅となり
○ただ白く朝日にせまるつむ山の気圏の底に夕日澄み染む
○コンクリの五月の風の漂泊の病の空に胸痛みあり
○愛切の目に新しく身は遠くしづくの湖に郭公の鳴く
○痛みあり遠くわれより囀りの近くも空に郭公の声
○青春の小路の径の語り合い野ばらの花の道をまたゆく
○瞳には崩れる砂の白浜のいのちの沖に鳥騒ぎをり
○散る花の大きくゆるる雪山の笑いし君の姿なくとも
○花色の互いに春にほろびける想いもいまもかわらずに咲く